オピニオン:長期的な災害対策に向けた研究開発の取り組みについて(3)

中村仁彦・アンカーマン

(3)災害対策義務の法的整備

わが国では原子力災害の対策に関連する国家プロジェクトが、これまでに二度立てられた。一度目は1979年の米国のスリーマイル島の事故の4年後に始まった1983-1990年の「極限作業用ロボットプロジェクト」である。プロジェクトの期間中の1986年にはチェルノブイリ原子力発電所の事故が起きた。二度目は東海村の臨界事故の翌年の2000年度の1年間にSMERT-K、SMERT-M、SWAN、MARS-M、MARS-T、MENHIRの6台のロボットとその周辺設備が開発され検証された。電力事業者は、原子力発電は安全だとしてこれらを施設整備に含めることはなかった。国もこれらの開発成果を維持継続する長期計画をもたず、研究開発は一過性のものとなった。

また、1995 年1 月の神戸の震災を経験した後に、大規模災害の後の救助を目的にした「大都市大災害軽減化特別プロジェクト」(2002-2006年)が立てられた。しかし、研究成果が消防に引き継がれることはなく、プロジェクトが維持継続されることもなく終了した。活動は大学の研究者とNPO国際レスキューシステム研究機構によって継続されている。

米国では防衛予算の一部が基礎科学技術の研究にあてられている。ロボット研究でもいくつものブレークスルーがこのような支援を受けた研究から生まれている。iRobot 社は掃除ロボットのRoombaと同程度の規模で、Packbotを始めとした軍事用ロボットでも成功を収めている。手術ロボットのIntuitive Surgical 社は、戦場での医療技術として支援され成長したベンチャーでもある。Big Dogで有名なBoston Dynamics 社も軍事ロボットベンチャーとして出発した。米国の技術者の先見性とそれを取り込む産業と経済のスピードに学ぶべきものがある。と同時に防衛産業という市場が、とくに2001年の9.11同時多発テロ以降に、対災害システムとしての軍事ロボットを育てて来たことも事実である。対災害システムの市場は自然災害のみからは生まれなかった。自然災害に備える長期的な投資を市場原理が育てるというのは、難しいのかもしれない。

フランスは電力の75%を原子力発電でまかなっている。1986年のチェルノブイリの事故や1991年までのラ・アーグ (La Hague) 再処理工場の度重なる事故によって、原子力に対する安全性の問題が議論され、2006年の原子力安全透明化法に至った。

フランスにGroup Intraという企業がある。この企業は発電所を運営するフランス電力会社EDF (Electricity of France)、フランス原子力庁ECA (French Atomic Energy Company)、原子燃料サイクルを担当するAREBA NC (General Company for Nuclear Materials)の三者によって設立されている。1988年に10年の年限付きで設立され、現在は2013年までの延長されている。IntraとはIntervention Robotique sur Accidentの略で原子力事故の際に出動するロボットシステムを運営している。1日24時間態勢で通報があれば1時間以内に準備でき、設備は5時間以内に出動可能となり、24時間以内に全てのフランスの領内で最初の活動が開始でき、72時間以内に第2波の活動ができるとのことである。このための設備の維持と人員の訓練には多くの資源が費やされている。これを可能にしているのはフランスの原子力安全のための法的な整備である。

わが国で軍事産業の市場形成によって防災対策を生み出すのは考えられない。ならばフランスにならって、原子力や自然災害に対する法的な整備によって市場を形成することを考えるべきである。電力や化学プラント等の事業主による災害対策義務を明確にし、この実施を監視・検証する機関を独立性の高い行政機関として位置づけて設立することが必要ではないだろうか。



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