タスクホースが中長期的に果たす役割(4)

中村仁彦・アンカーマン

わが国のロボットの技術力

わが国のロボット技術は世界に誇るものであるとの主張がある。先端的な研究開発の分野においては、まぎれもなく世界の米国、ヨーロッパとならぶ三極の一つである。多くの分野で技術史のマイルストーンになる成果を上げてきたし、現在もなお成果を上げており、世界で尊敬される地位にいる。しかしながら研究において質/量で圧倒的な優位をもっているというわけではない。三極は、科学技術政策の影響をそれぞれに受けており、その風向きが各時期の優位性に影響を与えてきた。

米国の技術と経済の突破力、ドイツ、フランスの科学的な接近力が、ロボットの新規産業分野において大きな力を持ちつつある。iRobot社はマサチューセッツ工科大学のR. Brooks教授が起業した会社で人工知能を応用した専門的な特徴を生かした昆虫型ロボットから始まり、掃除ロボットのRoombaで成功を収めている。そこから軍事用ロボットへ展開し、Packbotを生み出した。KUKAはドイツの産業用ロボットの企業である。これまでオープンアーキテクチャを武器にして、ヨーロッパの大学の研究成果を取り入れて技術力を高めている。とくに、ドイツのDLRが開発した関節の柔らかさを自由に変えることのできる技術を取り入れたロボットは、安全に人間と共同作業を行い、精密な力の制御が可能で、軽量に作られており、次世代の産業用ロボットと考えられている。

わが国の産業用ロボットは一時期において市場を席巻した。その後のロボットの新規市場の形成については極めて残念な状態にある。新規分野の事業を予感させたソニーのAIBOやQRIOは注目を集め成功を予感させたが経営判断からか、撤退に至った。この分野の市場はフランスや韓国などが支配しつつある。ソニーの技術者はどうして起業しなかったのだろうか、またソニーはなぜさせなかったのだろうかと思う。

手術ロボットの分野では2つの米国のベンチャー企業が訴訟合戦を合併で解決し、軍の唯一の契約者と指名されたあとに、急成長を遂げて世界を独占している。わが国ではほとんど遅れのない時期に研究開発が国のプロジェクトとして何度も立てられながら、ほとんど市場に出ていない。医療行政、大企業だよりの新規事業開発、起業家の育ちにくい経済環境、研究開発の求心力などのさまざまな理由がでてくるが、研究開発と技術政策と市場経済が噛み合ないちぐはぐな状況が続いてきた。


3件のコメント on “タスクホースが中長期的に果たす役割(4)”

  1. 矢内 重章 より:

    今回の原発事故に絡んで、我が国の極限ロボット技術についての議論が再燃するのは結構だとしても、それを支えるビジネスの仕組み(しっかりした調達ビジネス)がない限りは、本当の意味での防災ロボットは維持され得ないと考えます。今回の原発事故対応に、ロボット王国たる日本がなぜ出動できないかとの抗議電話が当会にも頻繁にかかってきましたが、ロボット技術者及びメーカにそれを求めても先の理由でどだい無理な話で余りにも酷過ぎます。本ブログにもあるように、これまでも極限作業ロボットプロジェクトやJCO事故での原子力防災ロボットでは実証機の製作は行っても、それを抱え運用する仕組みまでには至らず、日本特有の箱物的発想でのプロジェクトで終了しました。確かに、国際レスキューシステム研究機構というNPOは存在し、それなりの意義はあるものの、規模と内容(ロボットに限らずあらゆる防災装備も含め)を充実させ、本来は国がそれを抱える仕組みでないと、ロボット等の機器は我が国からは生まれません。このブログにソニーのAIBO事業の話がありましたが、確かにソニーの企業規模に比べ余りにもロボット事業が小さすぎることで撤退したのではと思われる方がいるかもしれませんが、事業である以上はリプレース(代替)需要がなければ本来の商品とは言えず(価格帯が違うトイ事業は別として)、その観点からみたら技術として見るべきものはあっても、同社が扱う商品としては限界があったいえます。防災ロボットも同様で、今回の原発事故にあるように、電力側及び国が原子力の安全神話を創り、リプレース需要はおろかニーズもなしとしたことは、製品は当然のこと、ビジネスも生まれません。今回のタスクフォースのミッションには、使えるロボット技術もそうなのですが、今後も起こるであろう不測の事態に備えた我が国、そして国際的な仕組みづくりも国に是非、提言して頂きたいと思います。話はくどくなりますが、我が国では安全神話を創る一方で、安全管理は現場の作業者に大きく依存する、そして利用者はリスクを取りたがらないという変なシステムとなっており、それらの啓発・啓蒙づくりも重要です。

    • 矢内様 コメントありがとうございます。ロボットを含むシステムを復興の各ステージで必要になる状況に合わせて、タイムリーに開発する枠組をタスクフォースから生まれればと思っています。わが国の力を結集することと同時に、国際協力も必要です。このための提案を含む話を今月、上海であるロボットの国際会議で特別フォーラムの形で公開シンポジウムのメンバーと一緒に、行う予定にしています。  中村仁彦

      中村仁彦

  2. Susumu Takase より:

    中村 様

    高瀬@神戸大学・経営大学院 です。

    これは直観的な見解で恐縮ですが、
    日本のロボットの隘路は、
    結局、ロドニー・ブルックスが日本で出たか出なかったかに尽きると思います。

    今の日本の実務家、経営学者の依拠する、「経営と技術」の分業論は、
    世界レベルの競争的環境におかれている分野においては、成立できないと思っています。

    田所先生はよくご存知だと思いますが、
    調査した限りは、神戸・瀧先生だから事業化出来たのであり、、他の方では無理だった想定されます。
    経営と技術の分業が成立するのは、事業規模がもう少し大きくなってからだと思われます。
    また、瀧先生が事業化できたのは、
    彼が第5世代のアーキテクチャのリーダー格の世界レベルの研究者だったから、
    ともいえます。

    中長期的には、田所先生か松野先生かわかりませんが、
    ともかく起業をして、その技術に対して金銭価値で見ることをしない限りは、
    日本のロボット産業の今後は厳しいと思います。
    その場合、大手大企業は、大口顧客です。護送船団方式の国家プロジェクトでは世界市場では戦えません。

    ちなみに、経営なぞは、誰でも学べます。というよりか、learning by doing だと思います。

    1.防衛省管轄で、防災関連の国家プロジェクトを打ち立てること。
    2.その際、大学教員をリーダーと大学教員や若手研究者からの起業を前提にすること。
    3.研究成果を民間利用するため、後継のプロジェクトファイナンスを国家プロジェクトの出口として検討しておくこと。

    この3つが重要だとお見受けしました。

    長文、失礼いたします。


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