タスクフォースが中長期的に果たす役割(6)

中村仁彦・アンカーマン

軍事ロボットと災害対策ロボット

JCOの事故後の国家プロジェクトを報告した日本ロボット学会誌の解説記事の中で、財団法人製品科学技術センター(当時)の間野隆久氏は開発した技術を継続して運用することの重要性を説いている。

米国では防衛予算から科学技術の研究開発にあてられるものの規模が大きい。ロボット研究でもいくつものブレークスルーがこのような支援を受けた研究から生まれている。iRobot社のように、あるいは手術ロボットのIntuitive Surgical社のようにそれをきっかけに成長したベンチャー企業もいくつもある。Big DogのBoston Dynamics社も、ディズニーのキャラクタロボット、ラスベガスのホテルの人工池で音楽に合わせて踊る大噴水、ATRのヒューマノイドロボットを開発したSarcos社もそのようなロボットベンチャーとして出発した。ロボットの軍事利用については国際法的にも倫理的にも議論がなされるべきである。しかし米国では、そのようなロボットが災害対策やテロ対策にいつでも使えるような状況で運用されている。

災害対策技術を開発しそれを国家規模で運用するためには消防や自衛隊との連携が必要になって来るだろう。大規模災害対策のレスキューロボットの研究開発では東京消防庁のハイパーレスキュ隊との連携がなされてきた。しかし、自衛隊との連携は大学においてはタブーといえる問題である。例えば、東京大学では1959年に当時の茅誠司総長が「研究者が良識と良心、自主性のもとに平和研究を行うべき」と東京大学新聞において発言し、その後の指針になっている。このような軍事研究への慎重な態度は他の多くの大学においても同様である。学術と平和を両立させようとする先学の決意を、現在の東京大学の構成員の一人として誇りに思っている。災害対策ロボットを国家規模で運用する組織を作るならば、防衛と災害対策を自衛隊の任務と位置づけてその上で災害分野に限った部門と大学等の研究機関の連携を築くように検討がなされるべきである。


3件のコメント on “タスクフォースが中長期的に果たす役割(6)”

  1. Susumu Takase より:

    神戸大学・経営の博士課程に在籍している高瀬と申します。学部の時は、現在、京都大学にいらっしゃる松野先生がいらした神戸大学システム工学科の研究室に在籍しておりました。大学院に進学し阪神大震災で亡くなられた競君とは同期になります。
    現在、大学発ベンチャーの研究をしており、同じくシステム工学科で起業された瀧教授の事例研究をいたしました。
    その関係で、国家プロジェクトや米国の大学発ベンチャーの事例も調査しましたが、この記事には感銘をうけました。
    これは日頃感じていたことです。僭越ながらコメントさせていただきますが、
    防衛大学校と各種大学が連携をするスキームで運用ベースでうまく対処できないかなと思うのがひとつ。
    MITリンカーン研究所は空軍基地にありますが、DECの事例のように、Project Whirlwind のJay Forrester MIT教授の下にいた、Ken Olsen が起業したように、通産省と大企業の護送船団の国家プロジェクト方式ではなく、大学教授をリーダーにして、大学発ベンチャーを興して事業化することをゴールにしたプロジェクトにすべきと思います。
    途中までは、国家の防災予算の後、民間のファンドがつないでいくようなプロジェクトファイナンスが良いのではと思います。DECに投資をしたハーバードビジネススクールの教授のDoriot がつくったAmerican Research & Development が、初期のベンチャーキャピタルの成功事例と言われています。
    現在、スタンフォード大学の学長のJohn Hennessyも、RISCチップ開発の大学発ベンチャーMIPS Technology を成功させています。その経験を元に、競争的な大学経営を展開しています。
    以上、私見ですが、重要な論点だと思います。社会科学や経営学が震災にはなかなか貢献しにくいのですが、なんとかお役に立てればと考える次第です。宜しくお願いいたします。

    • 高瀬様

      コメントありがとうございます。
      防災のシステムを軍事研究とは切り離して、大学等の研究機関が取り組めるようにするために、国家の防災予算と、民間のファンド、研究者の起業をバランスよく設計することで道が開ける可能性があるとのご指摘は、光を感じます。是非ご意見とご協力をお願いします。

      中村仁彦
      アンカーマン

      • Susumu Takase より:

        中村 様、高瀬@神戸大学・経営です。
        防災やロボットについては、日本は世界のリードする存在になる必要があると思います。
        しかしながら、オールジャパン体制による、基礎科学の蓄積から、民間への技術移転、というストーリーでは、
        裾野が広がらないことも、周知の事実かと思います。
        この案件のキーパーソンは、防衛大学校校長で、震災復興委員会の五百旗頭先生のような気がします。
        高等教育全般への波及効果も高いと思いますので、是非とも、ロボット学会の英知を結集して、
        この問題に取り組んでいただければと思います。このようなブログを開設していたいただいて、
        大変勉強になっております。今後とも、宜しくお願いいたします。


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